Act27 「魔女」

 

ブランク社幹部のゼンジにギリギリながらも、なんとか勝利を収めたギンザ。

一方、ゼンジとの闘いをギンザに任せ、カイト達は先にアムグスの最上部をめざしていた。

次にカイト達を待ち受ける刺客とは―――!?




「ちくしょう、階段が多すぎてもうヘトヘトだぜ……」

ギンザが現在戦っている広間までの分岐点がいくつもあった道とは違い、

どうやらずっと階段が続いている様子だった。

カイトが思わず愚痴をこぼす。

『まだ先は長い……が、幹部があと2人も残っている。

 オレ達の足どめをするのは明確だ。出来るだけ急いだ方がいい』

オメガが先頭から振り返りつつ言う。

「分かってるケドよ、オレ階段は苦手なんだよな…… 平坦な道ならラクショー…… なのになあ」

「はは…… デスクワーク柄、僕もなかなかにこの階段はキツイ……なあ」

寺原も息が上がりつつカベを手にしながら登っている。

ドラグロイは一番後ろで黙々と階段を上っているようだ。

「あたしも……キツイ……かも…… ちょっと休憩―――」

『……広間に出たぞ』

ミイネの言葉が最後まで続く前に、オメガが口をはさむ。

「や、やっとなのね、疲れた……」

各々が肩で息をしながら階段を登りきる。

「ここって……」

カイトが見覚えがあるような感じで辺りを見まわす。

どうやら、ギンザが戦っている場所と同じような構造の広間に出たようだ。

「あーあ、やっぱ来ちゃったワケ?」

広間の奥から、女性―――リズの声がする。

「アンタは……リズ!」

ミイネが思わず反応する。

「やっぱ戦闘狂のゼンジは甘いワケ。目的のヤツ以外は先に行かせると思ったワ。

 アタシはそうはいかない…… ここで全員足止めさせてもらうワケだから、ヨロシクね」

そう言うと、リズはケータイを開き、道化師型メダロット―――レフスを転送する。

「上等だぜ!行くぞオメガ!」

『ああ!』

『よし、拙者も―――』

「……待って」

ドラグロイの言葉をさえぎった急なミイネの制止にカイトは驚く。

「……? どうしたんだよ?」

「……あたし一人で、戦わせて」

カイトは思わず目を見開く。

「オイ!? 何言ってんだよ!ここは協力して―――」

「……お願い」

『……何か思うところがあるのだな?』

ドラグロイが何か察したように言う。

ミイネはこくり、とうなずく。

少し考えたような仕草をした寺原は、

「……カイト君、ココはミイネ君に任せてみよう」

「寺原さん!?」

寺原の提案にカイトは声を上げるが、寺原はさらに言葉を続ける。

「ミイネ君はいちど彼女と戦っている。

 下手に僕たちが一緒に戦うとかえってジャマになるかもしれない……

 それに……幹部は後一人残っているしね。戦力も温存しなければならない」

『残っているダヴは強敵だ……なおさらだな』

オメガが寺原の意見に同意する。

「でも……」

「大丈夫、必ずあたしが勝って見せるから!」

ミイネの自信に満ちた態度にカイトは、自分を納得させるようにうなずき、

「……分かった、頼む! 絶対勝てよ!!」

「ありがと、任せて!」

ミイネはそう言うと、リズ向き合うように立つ。

その横を通り過ぎるように、カイト達は奥にある階段を目指して走って行く。

「やっとオハナシは終わったワケ?しかし一人でアタシの相手をするなんて……

 ナメられたモンね」

「こうは考えないの?アンタはあたし一人で十分だ、って言ってるの」

リズは鼻で笑うと、

「まぁドッチにしても最初に言った通り、先を通す気は無いんだケド」

「なんですって……?」

「こういうコト」

そう言うとリズはスーツのポッケからスイッチのようなモノを取り出し、そのまま押した。

すると、階段への道がシャッターで閉ざされ―――……

カイト達とミイネの間にはガラスの様な透明の仕切りが展開された。

走っていたカイトたちは思わず急停止する。

『やはりか……すんなり通してくれないようだな』

オメガが分かっていたかのようにつぶやく。

「くっそ、きたねえぞ!」

カイトはその場で悔しそうに飛び跳ねる。

「おそらく彼女にミイネ君がロボトルで勝利しない限り、このシャッターが開くコトはないだろうね……」

寺原が察するようにつぶやく。

「皆……!アンタ、まさか最初っからあたしとだけロボトルするために……!?」

「……さぁ、なんのコトか分かんないワケ。

 始めましょっか、ミイネちゃん?」

「……ミイネ!そんな奴、ぶったおしちまえ!!」

カイトが仕切り越しに飛び跳ねながら叫ぶ。

「ええ……!やってやろうじゃない!行くわよ、コル!」

『うん!』

ミイネのメダロッチからパートナーのコルが転送される。一見、変わりないように見えたが―――

「おお!コレがミイネの―――……」

カイトが目を輝かせながらコルの姿に驚く。

「そう。アレが僕がミイネ君の今までの戦闘データをもとにして作り上げた最新型……

 魔女型メダロット『ウィードナー』さ」

寺原が思わず解説する。基本的な姿は変化がないが―――

黒いローブのような追加装甲、手から浮遊している球が増えている。

「ふぅん…… 機体が少し変わったトコロで自信がついちゃったワケ?」

「まぁね……よっし、バトルフィールド、展開!!」

ミイネはメダロッチを操作しロボトルの舞台―――「バトルフィールド」を展開する。

『バトルフィールド展開シマス…… 今回ノバトルフィールドハ「ひょうが」デス……』

メダロッチから潜水タイプが得意とするフィールド―――……「ひょうが」が宣告される。

「『ひょうが』は地形効果で停止させられるコトもあるフィールド……

 運が悪いわねぇ、ミイネちゃん」

「そんなの、条件は五分のはず……一気に行くわよ、コル!」

『任せて!』

バトルフィールドがすべて展開すると同時に―――……

『……ロボトルファイト』

メダロッチからロボトル開始の合図が流れる。

「レフス!左腕!」

ロボトル開始とほぼ同時に、リズがレフスに左腕の使用を命令しカードをコルの右腕に貼り付ける。

「フフ……さて、何の効果のカードを貼ったか分かるワケ?」

そう、リズだけは何かがトリガ―となってさまざまな効果が発動するカードの正体を知っている。

しかし―――……

「……コル!右腕を!」

『りょーかい!』

ミイネはコルに右腕の使用を命令する!

「ウソ……!?躊躇なく右腕を!?」

コルの右手周りに浮遊している球からエネルギーの塊、「タイムアタック」がレフスめがけて発射され―――

レフスの左腕に直撃する!

『……!!』

レフスが左腕をおさえながら少し後退する。

『レフス、左腕パーツダメージ15%』

メダロッチからレフスの左腕部へのダメージが告げられる。

「……フン!まだ始まったばかりだしダメージ自体は大したコトないワケだけど―――

 ……カードが、発動しない……?」

異変を感じるリズをよそに、ミイネは冷静にメダロッチを構えている。

「まぁ、何かの対策は取ってきてるってのはあらかた予想はついてるワケ。

 これなら……どう?」

リズはレフスに右腕の使用を命じ、コルの左腕にカードを貼り付ける。

「右腕、左腕にそれぞれカードかぁ…… 

 コレで、あたしは頭パーツしか安全に使えないってコトね」

ミイネが思わずつぶやく。

「良く分かってるじゃない、しかも―――左腕に貼ったからって、他のパーツで発動しないとは限らないワケ」

しかし、ミイネは口元をニヤつかせると、

「……コル、もう一度右腕を使って!」

ミイネはコルに右腕の連続使用を命じる。その瞬間―――……

右腕に貼りついたカードが爆発する!

「アハ、やっぱりさっき発動しなかったのは何かおかしかっただけみたいネ」

そう、リズがコルの右腕に貼りつけたのはパーツを使用すると爆発するトラップ。

先程発動しなければおかしい効果のはずだが―――……

「……なっ!?」

爆発のケムリが収まるとともに、リズが驚きの声を上げる。

『コル、右腕パーツダメージ5%』

爆発が起こったにもかかわらず、コルの右腕にダメージはほぼ通っていない。

「ダメージが少なすぎるワケ…… まって、さっき発動しなかったカード……

 増えてる腕部パーツの球…… アンタまさか!?」

「……あ、バレちゃった?」

ミイネがわざとらしくとぼけたフリをする。

「えっ?どういうコトだよ?さっきから何が起こってるんだ?」

カイトには何が起こっているか理解ができていない様子だった。

「……彼女、リズがコル君に貼ったのはミイネ君からも以前聞いていた、

 右腕の使用とともに爆発を引き起こすトラップカードだ。

 でも、貼った際と実際の行動が変化していたとしたら……?」

その様子を見かねた寺原が解説をする。

「……?つまり……?」

『つまり、別のパーツで行動した、という扱いになるというコトだ。

 少なくとも、あのカードの反応を見る限りな』

寺原の解説でも理解できていなかったカイトにオメガが突っ込む。

カイトはポン、と手を叩き、

「そっか、よくわかんねえケドひとつのパーツで他の行動ができるってコトだな!

 スゲエじゃん!!」

『ま……まぁ、そういうコトだ』

理解したような理解していないような態度にオメガは戸惑う。

「そうよ、さっき爆発したのはカードが貼られた時の行動をしたから。

 ―――『かいふく』を、ね」

そう、一度爆発はしたものの装甲が全壊するまでは至らず―――……

右腕の「かいふく」行動により装甲が回復し、総ダメージ量が5%となったのであった。

「ナルホド、ねぇ…… 武装の切り替えでアタシのカードを封じた、ってワケ?

 それだけだったら超ガッカリだけど、それだけじゃないんでしょう?」

「あたりまえじゃない、どんな状況でも対応できるようにあたしが設計したんだから!コルッ!」

『うん!』

コルは左腕の球から装甲を4分の1にする矢―――スタティック攻撃を放つ!

その矢はレフスの左腕部に見事に命中した!

『レフス、左腕パーツダメージ75%』

攻撃が命中しレフスはダメージを受けつつも、何故かケタケタと笑う仕草をする。

リズは鼻で笑うと、

「ナルホドねェ……以前の武装も使えちゃうワケね。

 いいワ、トクベツにあたしの奥の手、使わせてもらうワケ!」

そう言うと、リズはメダロッチを操作する。

それと同時にレフスの頭パーツのクチの部分が閉じ、カメラアイの色が赤く染まった。

「アタシのカードは、こういうコトだってできるワケ」

レフスが左腕のカードをはがして右腕に貼りつけ、右手をコルに向けるように構える。すると―――……

右手から光線が発射され、コルの左腕部に直撃する!!

『くっ……!』

『コル、左腕部ダメージ65%』

メダロッチの音声とともに、コルは少しぐらつくも体勢をすぐに整える。

「コル!……やっぱり、そのカードは自分にも効果が働くってコトね……」

「そう!いわゆる『へんか』に近い感じってワケ。イロイロな武装を扱えるのはコッチも同じ……

 こっからが本番ってカンジ?」

「望むトコロよ、この勝負、絶対勝って見せる!」

ミイネはメダロッチを構え直し、リズと対峙するのであった―――……

 

 

さまざまな武装を使い分けるコトができる新機体、ウィードナーでリズを翻弄するミイネ。

しかし、リズもカードによって多種多様な戦法を繰り出してゆく。

果たして、勝負の行方は―――!?

 

Act27・・・完

 

 

 

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