Act.1「Ωの名を持つもの」


ここは、オキナミ町。

大して名物もなく、至って普通の町である。

しかし町として非常に不便な点は、小学校より上の学校が存在しないという事ぐらいか。

この町のある公園で、どうやら2人の少年がロボトルをしているようだ。

「いけっ!オメガ!」

そう叫んだ頭がツンツンととがった少年は、

オメガと呼ばれた鳥型メダロット『スカイプテラ』を格闘攻撃に向かわせた。

しかし、いかんせん動きがぎこちなく、

相手のメダロットはそれをいとも簡単に避けてしまった。

「とろくせーんだよ!やれっ!ヴルム!」

頭にバンダナのようなモノを巻き、長髪が印象的なその少年が言う。

そしてヴルムと呼ばれた牛型のメダロットは、頭パーツからビームを発射した。

「やべっ!よけろ!」

オメガと呼ばれたメダロットは向かってくるビームを避けようとするが、

健闘むなしく頭パーツにビームが直撃してしまった……

『オメガ、機能停止、機能停止』

メダロッチの音声とともに、オメガと呼ばれたメダロットの背中からメダルが飛び出す。

「あ〜あ……また負けた……」

ロボトルに負けたツンツン少年がガクリと肩を落とす。

「お前なぁ……せっかくカブトメダル持ってるくせに、なんで格闘パーツしかないんだよ!

 いつまでたってもそれじゃ勝てねえって」

ロボトルに勝ったバンダナ少年が笑いながら言った。

ツンツン少年はムッと膨れると同時に、

「しょうがねえじゃんか!これしか持ってないんだから!カブト型のパーツは今じゃすっげえレアなんだ!

    持ってるんだったらとっくに着けてるっつうの!バカ!」

「なんだと!弱虫カイト!」

「うっせえ!バカギンザ!」

カイトと呼ばれた少年とギンザと呼ばれた少年は口喧嘩をし始めた。

この二人は、同じ小学校に在籍している。

そして、幼馴染だ。

しかし、二人の間にはなぜか喧嘩がたえない。

カイトと呼ばれた少年の本名は『北条カイト』。

ギンザと呼ばれた少年の本名は『海藤ギンザ』という。

「くっそー!次はぜってえ勝ってやるからな!見てろ!」

「いつでもこいよ!弱虫!」

そう言うと、カイトは猛スピードでギンザの前を去っていった・・・



約二分後……

二階建ての一軒家――カイトの家である。

カイトはドアを開き、玄関にクツを乱雑に脱ぎ捨て、中へと入る。

「ただいまー……」

居間の奥からカイトの母らしき人物が玄関へとやって来た。

名前は『北条 陸恵』……カイトを長い間女手一人で育ててきた。

「あら、おかえり」

「メシはm……」

「聞いたわよ〜」

カイトの言葉をさえぎり、母が言う。

「ギクリ」

「またギンザ君に負けたんだって?一回ぐらい勝ちなさいよ〜」

「だ、だってさあ!メダルがよくてもパーツが悪いんだって! な!オメガ!」

オメガと呼ばれたメダロットは、メダロッチの中で静かに答えた。

『……お前の腕が悪い』

「なんだと〜!」

母はあきれた様子で、

「はいはい。言い訳はいいから。 それより、あんた宛にこんな手紙が届いてたわよ」

「え!まさか……」

カイトは母の手から手紙を取り上げると、手紙の入っている封筒を荒々しく開けた。

「えー、なになに? 『北条カイトさまへ、あなたは当メダロット社の特別見学会に

 当選されましたので、ここに招待状を送ります。

 なお、交通費等はご自身の負担となりますので、ご注意ください』……」

「やったー!当たったーっ!」

カイトは喜んで、飛び跳ねている。

「何が当たったのよ?」

「抽選で一名に当たる、オキナミメダロット社の特別見学会だよ! まさかマジで当たるとは!」

「ふーん。で、それいつ?」

母は興味なさそうに言う。

「明日!」

即座に答えた。

「……こんなぎりぎりに来るもんなのね〜 まぁいいわ、気をつけて行ってくんのよ」

「言われなくても分かってるって!んじゃオレもう寝るよ!」

カイトは二階の自分の部屋に駆け上がろうとするが、

「……ご飯は?」

「あああああ!忘れてた!!」

『底抜けの……バカだ……』

オメガはあきれた様に言った。



―そして翌日……オキナミメダロット社前―

「でけええ!これがメダロット社かぁ!」

カイトが入り口の前でメダロット社を見上げながら言う。

『みっともない事をするんじゃない……さっさと入るぞ』

「うるせえな〜」

カイトは入り口のカウンターで招待状を見せると、いそいそと奥へ進んでいった。

「君が北条カイト君……かい?初めまして」

一人の若い研究員が話しかけてきた。

メガネを掛け、白衣を着ており、髪は短くも無く、長くも無いと言った感じだった。

「あっ、どうも……」

「そんなに硬くならなくてもいいよ。おっと、自己紹介がまだだったね。僕は寺原。

 ここじゃ一応一番偉いんだけどね……そうは見えないだろ?」

「うーん……確かに」

『初対面の相手に失礼だなお前は……』

「あっ、つい!スイマセン!」

オメガの一言に、カイトは寺原にすぐさま頭を下げた。

それを見かねた寺原は、思わず顔が緩み、

「あははっ!君は面白いやつだな!よし、 特別にいいものを見せてあげよう!」

寺原はカイトを連れて地下室へと進んでいった。

そこは薄暗く、何人かの研究員が目の前のモニターを食い入るように見つめて作業を続けている。

そしてモニターには、見たことのないメダルのデータが映し出されていた。

「なんですか?あのメダル……」

「あれはね……今から一ヶ月くらい前だったか……
2人の工事作業員が拾ったと言って持ってきたものでね。

 今研究してるんだけど、どうにもさっぱりって感じでね……

 カオスメダルっていうらしいんだけど……」

「へえ〜……」

カイトはあまり興味なさそうな感じに言う。

「さてと、本題は次の部屋にあるんだ。ついておいで」

「はい!」

寺原はカイトとともに鋼鉄ドアがある部屋へと向かう。

カードリーダーがあり、カードがなければ入れないらしい……

寺原は胸のポケットからカードを取り出し、扉を開ける。

「見せたいものというのは、これだよ」

するとそこには、見たこともないKBTタイプのメダロットが分厚いガラスケースで飾られてあった。

「これは……」

「これは今開発中の『オメガビートル・プロト』っていうんだ。

 まだ試作中だからプロトってついてるんだけどね……」

「すげえ……かっこいい!」

カイトはガラスにべったり引っ付いて、見とれている。

「君のメダルは確かカブトメダルだったよね?よかったら これのテスト……」

寺原がそう言いかけたとき、急に部屋の照明が消えた。

「わっ!なんだ!?」

寺原はポケットから携帯をだし、研究員に連絡を取る。

「どうした!何があった!」

「寺原博士!大変です!カオスメダルが何者かに盗まれました!」

「なんだって!?」

そして停電が回復すると、部屋のドアが一人でに閉まっていた。

さらに、ドアには高圧電流が流れている。

寺原はカードリーダーにカードを通すが、扉が開かない。

「ダメだ……セキュリティーが何者かに犯されている!」

「くそっ!どうすりゃいいんだ!」

オメガが静かに言う。

『……オレを使え。あのメダロットにオレを!』

「でもよ、あれはプロトタイプだろ?もし……」

『いいから早くしろ!』

「……よし!いちかばちかだ!寺原さん!これ、使うね!」

「このような形で手渡すことになってしまったが……仕方がない!」

寺原は分厚いガラスケースのロックを解除する。

そしてカイトはメダロッチからオメガのメダルを取り出し―――

『オメガビートル・プロト』に装着した!

『オメガビートル・プロト、起動開始』

起動音声とともに、オメガは体の動作を確かめる。

『なんだこれは……オレにあつらえたような感じがする……この不思議な感覚は?』

「よし!いくぞオメガ!」

「並の攻撃ではこの壁は壊せない!メダフォースで破壊してくれ!」

『了解!』

オメガはメダフォースを溜め始める。

『はああああああ……』

「やっとこれが使えるようになって、感激だぜ!行けぇ!」

『メダフォース!一斉射撃!』

光線状の波動が、壁に向けて放たれる――!

そして、鋼鉄製の壁をいとも簡単に壊してしまった……

「す、すげえ……」

カイトは思わず口をポカーンと開けてしまっていた。

寺原は携帯で研究員と連絡を取り終わると、

「すまない、研究員は足止めされてるみたいだ……

 カイト君、オメガ君……危険を承知で頼む!カオスメダルを奪還してくれ!

 あれは……まだ完全には分かっていないが危険な力を秘めているんだ!」

オメガはさも当たり前のように、

『……行くぞ、カイト。カオスメダルを奪い返す!』

「あ、ああ!うっし、行くぞ!」



―――ナゾの襲撃に巻き込まれてしまったカイトとオメガ……

果たしてカイトとオメガは、無事カオスメダルを奪還できるのか!?



Act.1……完

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